愛の生活のネタバレ、あらすじと感想を紹介します。
岡崎京子女史による1990年代前半の作品「愛の生活」。
実の兄、貴夫のことが好きでたまらない桜田純子。誰にも関心がない桜田貴夫。
ひょんなことから二人が暮らすアパートの同居人となった、林家三太。
三者三様に引きずる、過去の愛。
そして今、織りなす愛。でも「愛」とは一体何?
三太、純子、貴夫ともに誰もが、もがき苦しみ、出口を見つけようとしますが…。
愛の生活(岡崎京子)のネタバレ、あらすじ
第一話
林家三太(はやしや さんた)はデザイン系の専門学校に通う学生です。
6つ年上のOLと交際し、一緒のアパートに住んでいました。
しかしその彼女が「再来月結婚する」と言って、アパートを出て行ってしまいました。
残された三太は、家賃が払えなくなって夜逃げをするのでした。
そんなこんなで落ち込んでいる三太は、桜田純子(さくらだ じゅんこ)から話しかけられます。
『あのさぁ あたしんとこ来ない?』と。
三太は動揺します。
純子とはデザイン学校で同じクラスでしたが、入学してから2回位しか話したことはなく、『なんだこの女!! ドーセイのおさそいか?』と。
純子は大学院生である兄と一緒に部屋を借りているが、純子自身の部屋はほとんど使っていないので、そこに来ないかと誘います。
住む場所に困っていた三太は、とりあえず純子の部屋へと向かうことにしました。
三太が『お兄さま ごぞんじなの この話』と問うと、純子は『あたしのこと なんとも思ってないんだから』との返答。
『さいですかと ゆーしかない』三太でした。
『ここの302』と言って部屋の鍵を三太に渡す純子。
純子はそのまま帰ろうとしますが、兄の桜田貴夫(さくらだ たかお)に呼び止められます。
『じゅんこ どうした?』と。
『オレは別にかまわないよ』と、貴夫はあっさりと三太が部屋を使うことに同意します。
『あたしがいる時より きっといいよ』と純子、『何いってんだ』と貴夫。
そのやり取りを見ていた三太は、『なんだこのかんじ なんかへんだじぇ』と感じるのでした。
その夜三太は、貴夫・純子兄妹と一緒に家飲みをすることとなりました。
大いに盛り上がる3人。
三太は貴夫に対して『今日からアニキと呼ばせてもらいます』と叫ぶのでした。
三太が翌日の昼過ぎに起きると、兄妹は2人ともおらず『起きたしゅんかん 事態がはあくできなくて 心臓がばくばくいったぜ』と焦ります。
学校に行っても純子はいませんでした。
同じ学校のたまみ(人のうわさ話が大好きで、みんなからバカたまみと呼ばれている)に聞くと、純子は今サラリーマンの男と交際しているとのことでした。
さらには…。
たまみから聞いた話が『そのことばがくつの底にくっついた ガムみたくはがれなかった』と思いを巡らす三太でした。
その頃、純子は交際しているサラリーマンの男の所にいました。
『きのう どこ行ってた!!』と激しく罵倒される純子。
挙句の果てにはその男から顔を殴られます。
『いつも同じだなぁ どんな男とも 上手くいかない』と煙草をふかしながら思う純子…。
ある朝、三太は貴夫と二人分の朝食を用意しますが、貴夫からは『ぼくの立ち位置まではいりこまないでほしい』と言われてしまいます。
といいつつも、貴夫は何かと親切で、なんだかんだと世話をしてくれるのでした。
とある初夏に日、三太は桜田家に自分の荷物を移します。
貴夫は引っ越しそばまで用意してくれたのでした。
純子は相変わらず、学校にも来ていないし、部屋にも寄り付いてきませんでした。
三太は『いつもこんなんですか?妹さん』と貴夫に聞くも、『昔からそーだよ』との返事でした。
ある夜、三太が桜田家に帰ると玄関に女性ものの靴がありました。
『やりますな お兄さん』と思う三太でしたが、ちょうどそこに純子が子猫を拾って帰ってきます。
その靴を見た純子は、そのままきびすを返すように帰ってしまいます。
その後をついていく三太。
突然純子は橋の上から猫の入った子箱を川に落とします…。
『オレ帰る』と三太。
何で純子がそんなことをするのかが理解できなかったためです。
その時、バシャーンと音がします。
それは純子が一度は投げ捨てた箱に入った子猫を、やっぱり助けようとして川に飛び込んだ音でした。
三太は、純子を助けるために同じく川に飛び込みました。
そして純子から、『あたしダメなの もう』と。
『お兄ちゃんのことが好きでたまんないのよ』と告げられる三太がいました。
愛の生活 第二話
貴夫は左目をつむり、ティーカップにお湯を注いでいます。
それを見た三太は、『桜田アニって何かする時いちいちウインクするっしょ?』と問います。貴夫は『オレすごいガチャ目で』『高校ん時に野球でボールぶつけられて』と答えます。
『野球やってたんですか?』と三太がさらに問うと、貴夫は沈黙してしまいます。
『感電しちゃったと』と三太。
『思うんだけど人間ってさわってほしくないモノ ふれられたくないコトにふれられると電気を出すんだ』。
そして早くお金を貯めて、この部屋を出ようと思う三太がいました。
三太がアルバイトをしている店に、純子がやってきます。
純子は見知らぬ男と一緒でした。
そんなところにある二人組が訪れます。
それは三太を捨てたOLの森正子(もりまさこ)とその交際相手の男なのでした…。
純子は三太に対して『“卒業”しちゃえば?』『結婚式に乱入して彼女をうばっちゃうの!!』とまくし立てるのでした。
そして三太は純子が言ったとおりに、正子の結婚式の当日に教会に行って“卒業”を決行すると決意するのでしたが…。
愛の生活 第三話
三太が貴夫と純子の兄妹の部屋に転がり込んで、数カ月たっていました。
もうそろそろと思いつつズルズルと過ごしていました。
三太は、無気力と苛立ちの中にいました。
『でも本当今は全然絵もかく気がしない』『前は時間と紙さえあれば かきたくてしかたなかったのに』と…。
ある日、三太は突飛な行動に出ます。
それは友達の焼きそばパンをうばい、そのまま2階の窓から飛び降り、赤信号の横断歩道に向かったのでした。
『その時オレはどうにかしてたんだ 何か強烈なことが欲しくて でも全然そんなこと起こんなくて』『赤だ でも渡りきれる!!』と。
でも案の定、ある女性が運転する自動車にはねられ、全治3か月で入院するはめになります。
三太をはねた自動車を運転していたのは、貴夫の元交際相手で、さっさと金持ちと結婚した山口桃枝(やまぐち ももえ)だったのでした。
再び出会ってしまった、貴夫と桃枝。
複雑な関係性の、純子と貴夫の兄妹。
その中にその中に飛び込んでしまった三太。
今後どうなっていくのでしょうか。
この続きは、ぜひ作品を読んでみてくださいね。
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愛の生活(岡崎京子)の感想
岡崎京子女史による「愛の生活」は、1992年から1993年にかけて雑誌「ヤングゼロ」(角川書店)に掲載されました。
巻末には、女史による貴重なあとがきも収録されています。
―『この作品のタイトルは「愛の生活」とありますが、正確には「愛したいけれど愛せない人達の生活」、あるいは「愛されたいけれど愛されない人達の生活」、すべきだったでしょう。』―と記載されています。
何かこの一文に「愛の生活」という作品のすべてが、濃縮されているように思われます。
作品の中を通して描かれる、登場人物たちのもどかしさ、出口のなさ。「愛」とはなんであるのか。
―『みじめな人達のみじめな物語です。ただ、みじめな人達もじょじょに学んでいくでしょう。』―
「物や情報が飽和した現代」といわれて久しい今。
この1990年代前半に描かれたこの作品は、「愛とは何か」という普遍的な疑問を投げかけているように思えてなりません。
なお、この「愛の生活」の連載終了の1ヵ月後から、あの怪物作「リバーズ・エッジ」の連載が開始します。
岡崎京子女史の転機前夜を感じさせる本作「愛の生活」は、その意味においても重要な意味を持つ作品と言えるでしょう。
「リバーズ・エッジ」を読んだ皆様、岡崎京子女史の作品に興味のある皆様には、必読の作品であることは間違いありません。
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